華族という言葉にまつわる誤解
「華族(かぞく)」という言葉があります。
現代でもよく用いられる言葉です。
テレビやネットなどでも「元華族の~」、「旧華族の~」、
などという表現がよくなされます。
華族というのは、
明治時代に成立した身分のうちの一つです。
皇族・華族・士族・平民と四つの身分があって、
皇族に準じた身分が華族です。
皇族は別格なので身分に含めない場合もありますが、
このような理解でよいでしょう。
華族制度は、戦後GHQによって廃止されました。
したがって、
現在日本には華族という身分はありません。
しかし、
戦前において華族だった家系を、
「元華族」・「旧華族」というような呼び方をすることはあります。
華族という言葉が独り歩きしている
実は、
こういった正確な理解をしている方は、
それほど多くいません。
「華族」という言葉は、
独り歩きしてしまっているように思います。
よく、芸能人などで、
実家が資産家だったり官僚だったりした場合には、
「実家は元華族で~」といったような言われ方をします。
以前、
とある芸能人のウィキペディアには、
もっともらしくそのような記載がなされていたことがありました。
実家は「○○男爵家で…」といった記載がなされているのです。
華族だった家系は全部で1000家ほどしかないので、
その方の苗字を調べれば、
華族だったかどうかは、
簡単に分かるのですが、
どういうわけか間違った認識がされているようです。
芸能人や有名人について、
「誰それは元華族だ」といったような言い方がされることが多いのは、
単に正確に言葉が理解されていないだけで、
まったく事実ではないことが多いのです。
華族という言葉が誤解される理由を探る
華族という言葉が、
なぜこのような誤解を招くようになってしまったのかは、
大いに興味があるところです。
ひょっとしたら戦前の時点でも、
一般には定着していなかった言葉なのかもしれません。
華族という言葉が独り歩きしている理由については、
おそらく華族という存在が極めて希薄だったからだと、
私は考えています。
歴史上、
「華族」が存在していた時代は、
80年足らずしかありませんでした。
華族は資産家だったか?
華族だった家が資産家だったかというと、
そうでもありません。
もちろん大名の子孫や、
財閥家系であれば、多くの資産を持っていました。
しかし、
公家の子孫や、新華族であれば、
それほど多くの資産を持っているわけではありません。
経済的な理由で、
華族としての体面を維持できないために、
華族という身分を返上した家もあります。
士族や平民であっても、
華族よりも資産家だったものは、数え切れないくらいいます。
戦前の時点ですでに華族は没落していた?
そして、
昭和2年(1947年)の十五銀行の破綻によって、
華族たちは大損害を受けます。
十五銀行は、
華族が出資して設立した銀行で、
通称“華族銀行”とも呼ばれていました。
十五銀行の破綻によって、
華族という階級は、
事実上滅んだという指摘すらあります。
つまり、
華族制度というのは、
戦前の時点で、
すでに崩壊しているような部分もあったわけです。
そうであれば、
現代において「華族」という言葉が、
誤解されて用いられるのも仕方ないように思えます。
時間の経過とともに言葉の意味は変わっていくものです。
今後「華族」という言葉も、
単に「名門家系」や「名家」を示すものに変わっていくのかもしれませんね。