名字の全国分布
日本には、実に多様な名字があって、その数は、約12万とも言われています。
そうした事もあってか、これまでに実に多くの名字に関する本が書かれてきました。
しばしば、そういった本を読むと、多様な名字に目を奪われて、珍しい名字の解釈に深入りしてしまうことになってしまいます。
そんななかで面白い本を読んだので、内容を紹介いたします。
武光誠さんの『日本の名字』です。
著者が目指したのは、「日本の多数の名字を見ていくための地図作り」です。
どういった地域に、どのような名字が見られるのかを、分析することで、その地方の歴史を考察してみるという、一風変わった名字の本です。
以下、内容を紹介してみましょう。
東日本に多い名字・西日本に多い名字
東日本と西日本で名字の分布が大きく異なる、という事実があります。
佐藤・加藤・伊藤・斎藤・渡辺・佐々木などの名字は、東日本に多く見られる名字です。
これらは、源氏、平氏、藤原氏などの流れをくむ武士が広めたものと考えられています。
一方、西日本では、田中・山本・井上・中村・山田・吉田などの、自然の地形や農村の地名に由来する名字が多いです。
これは、自分の居住地のありふれた地名を名字にした、西日本の武士がかなりいたことを示していると解されます。
名字の東西分岐点を調べる
では、具体的に東西の分岐点を名字で見た場合、どこになるのでしょうか?
まず日本海側を見てみましょう。
新潟県と富山県では、名字の分布が明らかに異なっています。
新潟県では佐藤、渡辺などの東日本の名字が多いです。
これに対して、富山県では山本、田中といった西日本の名字が目立ちます。
これは、新潟は関東地方や東北との交流が盛んであり、富山は近畿方面との交流が盛んだったことによるものです。
関ケ原は名字の東西分岐点でもあった
内陸部では、長野県までが東日本で、滋賀県からが西日本になります。
そしてこの中間の岐阜県では、東西の名字が交じっています。
厳密に言えば、岐阜県の垂井町と、関ヶ原町との境に、東西の名字の分岐点があります。
地形的に見て、垂井町は愛知県との交流が盛んで、関ヶ原は滋賀県との交流が盛んです。
“天下分け目の関ヶ原”で、徳川家康率いる東軍と、石田三成率いる西軍が戦ったわけですが、関ヶ原は、名字の東西の分岐点でもあったのでした。面白いですね。
また、太平洋側の東西の名字の境は、三重県にあります。
三重県北部の桑名市、四日市市などは東日本の名字であり、県南部に位置する松阪市あたりから西日本の名字が多く見られます。
もちろん、このような名字の研究は、家系図作成にも役立ってくるものです。
名字から簡単に先祖を探れるわけではありませんが、名字の分布から見えてくるものはあります。